脂肪酸

出典: 成長ホルモンで身長を伸ばす方法

脂肪酸(しぼうさん)とは、長鎖炭化水素の1価のカルボン酸である<ref>IUPAC Gold Book - fatty acids</ref>。炭素数が多いもの、特に12以上のものを一般に高級脂肪酸と呼ぶ。一般式 CnHmCOOH で表わせる。脂肪酸はグリセリンエステル化して油脂を構成する。脂質の構成成分として利用されるほか、ヒトを含む多くの生体内ではエネルギー源として好気的に代謝される(β酸化)。

広義には油脂脂質などの構成成分である有機酸を指すが、狭義には単に鎖状のモノカルボン酸を示す場合が多い。炭素数や二重結合数によって様々な呼称があり、鎖状のみならず分枝鎖を含む脂肪酸も見つかっている。また環状構造を持つ脂肪酸も見つかってきている。

目次

脂肪酸の分類と呼称

脂肪酸 (fatty acid) は炭素数および不飽和結合の有無によって主に分類される。不飽和度による分類はさまざまであるが、基本的には以下の分類に従う。

  • 飽和脂肪酸 (saturated fatty acid, SFA) — 炭素鎖に二重結合あるいは三重結合を有しない(飽和である)
  • 不飽和脂肪酸 (unsaturated fatty acid, UFA) — 炭素鎖に二重結合、三重結合を有する

また不飽和脂肪酸は二重結合の数が1つであるか、複数であるかによって以下の分類がなされる。

  • モノエン脂肪酸(一価不飽和脂肪酸、monounsaturated fatty acid, MUFA) — 二重結合の数が1つである
  • ポリエン脂肪酸(多価不飽和脂肪酸、polyunsaturated fatty acid, PUFA)— 二重結合の数が2つ以上である。二重結合の数が4つ以上のものを高度不飽和脂肪酸と呼ぶ場合もある。

また、二重結合の有無および炭素数の差異によって名称が異なる。詳細は以下に述べる。

脂肪酸は生合成を受ける際に炭素数が2個ずつ増加していくため、基本的には炭素数が偶数個の脂肪酸が大半を占めるが、α酸化を受けることによって炭素数が奇数個の脂肪酸が合成されることもある。不飽和度以外の分類方法は、以下にまとめる。なお炭素数による分類は別項を設ける。

  • 分枝脂肪酸 — 分枝鎖を有する脂肪酸
  • 環状脂肪酸 — 環状構造を有する
  • ヒドロキシル脂肪酸 — ヒドロキシ基を含む

命名法

脂肪酸の命名法はIUPAC生化学命名法<ref name="IUPAC-IUB">IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclature (CBN) Nomenclature of Lipids(Recommendations, 1976)</ref>に定義されている。(尚、この項の符号Rule Lip-…は同命名法の節番号を示す)

脂肪酸は天然の脂肪加水分解して得られる脂肪族モノカルボン酸である。広く使用されている遊離脂肪酸(free fatty acids)や非エステル化脂肪酸(nonesterified fatty acids)という語が使用されているが、遊離や非エステル化という修飾語は徐々に廃止すべきである(Rule<ref name="IUPAC-IUB" /> Lip-1.1)。また、これらのアクロニムであるFFANEFAなどは使用すべきではない(Rule<ref name="IUPAC-IUB" /> Lip-1.14)。言い換えると、厳密には炭素数が3以下など天然の脂肪に含まれないものは脂肪族モノカルボン酸と呼ぶべきであるが総称として脂肪酸と呼ばれる。

尚、脂肪酸基をアシル(基)という語で示す場合があるが、アシル(acyl)はIUPAC有機化合物命名法によるものである。アシルは任意の長さの直鎖構造を持つがIUPAC生化学命名法の脂肪酸は炭素数が4以上のものを指す。そして、炭素数が10を超える(>C10)脂肪酸は高級脂肪酸(higher fatty acids)と呼ばれている。(Rule<ref name="IUPAC-IUB" /> Lip-1.2)

脂肪酸とそのアシル基の命名はIUPAC有機化合物命名法(Rule C-4)に従うまた許容慣用名や略号については下の表に示す。いままでは2つ以上の二重結合を有する不飽和脂肪酸でギリシャ文字を使用して異性体を示していた(例α-ないしはγ-リノレン酸)、これは二重結合の位置番号を列挙する方法(例 (9,12,15)-リノレン酸ないしは(6,9,12)-リノレン酸)に変えるべきである。しかし、二重結合の位置を示すさいに接頭辞としてギリシャ文字を使う方法は位置を列挙する方法の省略形として使用しても良い(Rule<ref name="IUPAC-IUB" /> Lip-1.6)。あるいは二重結合の位置はIUPAC有機化合物命名法の省略形であるΔを使用してもよい(例 Δ91215-リノレン酸)。

また脂肪酸を炭素数と二重結合の数の組み合わせ(例 16:0 = パルミチン酸, 18:1 = オレイン酸 )で示しても良い。アシル基の場合は(stearyl-の代わりに)(18:0)acyl-と表しても良い (Rule<ref name="IUPAC-IUB" /> Lip-1.15)。

脂肪酸末端(カルボキシ基から最も離れた位置)から同じ位置に二重結合を持つことを示す場合は(例、末端から9番目に二重結合を持つ脂肪酸グループの場合)はn-9と示す(nは具体的には当該脂肪酸の炭素数を意味する)。あるいはω9とも示す(ωは二重結合の位置を示すギリシャ文字省略形)。すなわちオレイン酸の二重結合18-9とネルボン酸の24-9とはω9<ref>日本油脂化学協会(同協会編、『油脂化学便覧』、丸善、1998年)ではω9式ではなくω-9式の表記が示されている。</ref>と総称する (Rule<ref name="IUPAC-IUB" /> Lip-1.16)。

脂肪酸の命名例 (Rule<ref name="IUPAC-IUB" /> Lip. Appendix A, Appendix B)
数値表現
(Numerical symbol)
示性式
CH3-(R)-CO2H
組織名 慣用名 略号 融点(℃)<ref name="脂質の科学">板倉弘重、『脂質の科学』、朝倉書店、1999年 ISBN 4-254-43514-2</ref>
4:0 -(CH2)2- ブタン酸酪酸(ブチル酸)Bu 
5:0 -(CH2)3- ペンタン酸吉草酸(バレリアン酸)Pe 
6:0 -(CH2)4- ヘキサン酸カプロン酸Hx 
7:0 -(CH2)5- ヘプタン酸エナント酸(ヘプチル酸)Hp 
8:0 -(CH2)6- オクタン酸カプリル酸Oc 
9:0 -(CH2)7- ノナン酸ペラルゴン酸Nn 
10:0 -(CH2)8- デカン酸カプリン酸Dec 
12:0 -(CH2)10- ドデカン酸ラウリン酸Lau44.2
14:0 -(CH2)12- テトラデカン酸ミリスチン酸Myr53.9
15:0 -(CH2)13- ペンタデカン酸ペンタデシル酸   
16:0 -(CH2)14- ヘキサデカン酸パルミチン酸Pam63.1
16:1 -(CH2)5CH=CH(CH2)7- 9-ヘキサデセン酸パルミトイル酸ΔPam0.5
17:0-(CH2)15- ヘプタデカン酸マルガリン酸  
18:0 -(CH2)16- オクタデカン酸ステアリン酸Ste69.6
18:1(9) -(CH2)7CH=CH(CH2)7- cis-9-オクタデセン酸オレイン酸Ole14.0
18:1(11) -(CH2)5CH=CH(CH2)9- 11-オクタデセン酸バクセン酸Vac 
18:2(9,12) -(CH2)3(CH2CH=CH)2(CH2)7- cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸リノール酸Lin-5.0
18:3(9,12,15) -(CH2CH=CH)3(CH2)7- 9,12,15-オクタデカントリエン酸 (9,12,15)-リノレン酸αLnn-11.3
18:3(6,9,12) -(CH2)3(CH2CH=CH)3(CH2)4- 6,9,12-オクタデカトリエン酸 (6,9,12)-リノレン酸γLnn 
18:3(9,11,13) -(CH2)3(CH=CH)3(CH2)7- 9,11,13-オクタデカトリエン酸 エレオステアリン酸eSte 
19 -(CH2)17- ノナデカン酸ツベルクロステアリン酸  
20:0 -(CH2)18- イコサン酸アラキジン酸Ach75.6
20:2(8,11) -(CH2)6(CH2CH=CH)2(CH2)6- 8,11-イコサジエン酸   Δ2Arc 
20:3(5,8,11) -(CH2)6(CH2CH=CH)3(CH2)3- 5,8,11-イコサトリエン酸  Δ3Arc 
20:4(5,8,11,14) -(CH2)3(CH2CH=CH)4(CH2)3- 5,8,11-イコサテトラエン酸アラキドン酸Δ4Arc-49.5
22:0 -(CH2)20- ドコサン酸ベヘン酸Beh81.5
24:0 -(CH2)22- テトラドコサン酸リグノセリン酸Lig86.0
24:1 -(CH2)7CH2CH=CH(CH2)13- cis-15-テトラドコサン酸ネルボン酸Ner 
26:0 -(CH2)24- ヘキサドコサン酸セロチン酸Crt 
28:0 -(CH2)24- オクタドコサン酸モンタン酸Mon 
30:0 -(CH2)26-  メリシン酸  

一般に炭素数が短くなると融点が下がる。炭素数5のペンタン酸などでは融点は −34.5 ℃ である。一方、炭素数が増加すると融点は上昇する。炭素数30の トリアコンタン酸の融点は 93.6 ℃ である。炭素数が7以下のものを短鎖脂肪酸、8–10のものを中鎖脂肪酸、12以上のものを長鎖脂肪酸という。

ω3 系列か、ω6 系列かをはっきりさせるため、20:5 ω3あるいは20:5(n-3)と表記することもある。

生化学

脂肪酸生合成系

ファイル:説明図 酵素 複合酵素.jpg
複脂肪酸生合成系
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脂肪酸生合成アセチルCoA(炭素数2)を出発物質として、ここにマロニルCoA(炭素数3)が脱炭酸的に結合していく経路である。すなわち、炭素数2個ずつ反応サイクルごとに増加し、任意の炭素鎖を持った脂肪酸が作成されることとなる。

また、脂肪酸生合成反応が起きるには補酵素Aは用いられず、アシルキャリアータンパク質 (ACP) にアセチル基が結合したアセチルACPおよびマロニルACPが実際の反応をになうこととなる。以下に反応系を示す。

  1. アセチルCoA(C2) + CO2 + ATP → マロニルCoA(C3) + ADP + Pi
  2. アセチルCoA + ACP → アセチルACP + SH-CoA
  3. マロニルCoA + ACP → マロニルACP + SH-CoA
  4. アセチルACP + マロニルACP → アセトアセチルACP(C4) + CO2 + ACP
  5. アセトアセチルACP + NADPH → βヒドロキシブチリルACP(C4) + NADP+
  6. βヒドロキシブチリルACP → 2E-ブテノイルACP(C4) + H2O
  7. 2E-ブテノイル + NADPH → ブチリルACP(C4) + NADP+
  8. ブチリルACP + マロニルACP → カプリルACP(C6) + ACP + CO2

8.の反応は4.の反応と同じである。このように炭素数2個ずつの脂肪酸炭素鎖の伸長が行なわれる。なお、上記の反応を触媒する酵素は以下の通りである。

  1. アセチルCoAカルボキシラーゼ
  2. アセチルトランスフェラーゼ
  3. マロニルトランスフェラーゼ
  4. 3-ケトアシルシンターゼ
  5. 3-ケトアシルレダクターゼ
  6. 3-ヒドロキシアシルデヒドラターゼ
  7. エノイルレダクターゼ
  8. 3-ケトアシルシンターゼ

不飽和脂肪酸

飽和脂肪酸はエネルギー代謝に重要な役割を果たすが、不飽和脂肪酸の役割はそれとは異なる。1930年代の動物実験により不飽和脂肪酸を欠くことで、皮膚障害、不妊などが引き起こされることからG.O.BurrあるいはH.M.Evansによりリノール酸、リノレン酸などが摂取することが必須の栄養素である必須脂肪酸(ビタミンF)であることが示された。畜産動物の肉に割合多く含まれる飽和脂肪酸は、必須栄養素ではなく、食生活指針などでも病気との関連が示され、多くの摂取は推奨されていない。その後高度不飽和脂肪酸プロスタグランジン類の原料や新生児・乳児の中枢神経系の発育の為に必須であることが示された。<ref>『世界大百科事典』、必須脂肪酸、平凡社、1998年</ref><ref name="脂質の科学" />

反対に飽和脂肪酸は、WHO/FAOが肥満問題に対する戦略のひとつとして摂取制限を挙げている<ref>5.2 Recommendations for preventing excess weight gain and obesity, DIET,NUTRITION AND THE PREVENTION OF CHRONIC DISEASES, pp.61-71, Joint WHO/FAO Expert Consultation, 2003.</ref>。

関連項目